平成20年1月11日に施行された、いわゆる「
改正DV法」ですが、改正後DV防止法違反容疑で、全国初の逮捕者が出たとのこと。(改正で盛り込まれた面会要求の禁止規定にて。)
★暴力男:元妻に面会要求し逮捕 DV防止法違反で 福島
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20080226k0000m040149000c.html 裁判所の保護命令に反して、別れた妻(29)に電話で面会要求したとして、福島県警三春署は25日、同県田村市船引町大倉の調理師、村越雄城容疑者(31)を配偶者暴力(DV)防止法違反容疑で逮捕した。今年1月のDV防止法改正で盛り込まれた面会要求の禁止規定での逮捕は全国初という。
調べでは、村越容疑者は今月12日午後5時20分ごろ、元妻に「会って話がしたい」と電話をした疑い。村越容疑者は「今後のことを話し合いたかった」と供述しているという。
村越容疑者は同居していた元妻に殴るけるなどの暴力を振るい、元妻の申し立てで福島地裁郡山支部が今年1月28日、元妻への接近と面会要求を禁じる保護命令を出した。村越容疑者と元妻は今月、離婚が成立している。【今井美津子】
毎日新聞 2008年2月25日 23時17分
一部、今回の改正法で盛り込まれた「保護命令制度の拡充」に関して問題提起している方々がいるようですが、私は詳しく個別事例を調査しておりませんので、疑問視する方々の主張の根拠がどのくらい正当性のあるものなのかは、今のところ、判断不能です。
しかし、現実的に、離婚の「確定後」でさえも、このようなDV加害者は存在しているんですよ。「今後のことを話し合いたかった」も何も、「離婚が成立している」のに。。
なお、この種の事件では
DV防止法についてしか言及されない傾向があるようですが、内閣府のサイトにあるように、
DVと一口で言っても、それを解決するための法律は他にもいくつかありますので、その点も注意が必要です。
また、現在のところ、DV防止法は、その名称通り、DVの「防止」のための根拠となる法律であり、加害者が配偶者であれ、家族であれ、単なる通行人であれ、「加害者を罰するため」には原則として「警察に被害届けを出す」というステップが必要ですので、それをお忘れなく。(今回のケースも被害者である元妻が、警察に被害を届ける、地検が保護命令を出す、というステップがあったからこそ、元妻の安全が守られたわけです。)以下、どれだけ多くの法が関わっているのかをイメージしやすくするために、
内閣府のサイトからそのままコピーしておきます。
http://www.gender.go.jp/e-vaw/law/index.html(←条文も載っていますので、知りたい方はぜひともクリックして読んでみてください。)
配偶者からの暴力防止にかかわる関連法令・制度の概要【男女共同参画に関する基本的な法律】男女共同参画社会基本法
【配偶者からの暴力防止に関する基本的な法律】配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律
【被害者の保護に関する法律・制度】 刑法
暴力行為等処罰に関する法律
軽犯罪法
ストーカー行為等の規制等に関する法律
警察官職務執行法
刑事訴訟法
被害者等通知制度
保護命令
保護命令申立書(作成例)
配偶者暴力に関する保護命令手続規則
民事保全法に基づく仮処分命令
売春防止法
出入国管理及び難民認定法
退去強制の手続
【生活支援のための法律・制度】 生活保護法
児童福祉法
児童虐待の防止等に関する法律
母子及び寡婦福祉法
生活保護制度
母子福祉資金貸付制度
生活福祉資金貸付制度
児童手当
児童扶養手当
ちなみに、個人的には、どうしても夫婦間暴力の問題を、「男女共同参画」の文脈で実行してしまう安易さに疑問を持ってしまうんですよね。というのも、そもそも、DVという概念は、通常ならば刑法が適用されるべき暴力が「家族のあいだにも存在している」という現実を「多くの人たちが認識しやすくするため」に誕生したはずですよね?ですので、私は、こんな重大な件に関して、刑法とその関連法規ではなく「男女共同参画」を前面に出してしまう役人の感覚こそが、おかしいんじゃ、と思っています。(だって、男女共同参画も何も、暴行事件なんですよ。。。)
さらに、ちなみに。一部で、男性から女性ではなく「女性から男性に対する暴力もあるのに、男性が加害者で、女性が被害者と最初から決め付けるのはどうか?」という趣旨の論調があがっているようですが、そう思う人がいるのも不思議ではないと私は思いますよ、だって、「男女共同参画」の文脈でやっちゃってるんだから。。
なお、女性から男性への暴力についても、上記引用した法律のほとんどは適用可能なはず。とりあえず、気になる方は、
「警視庁」のホームページを見てくださいませ。Q&A形式で、簡潔にこう書いてありますので。
Q 「配偶者」とは?
○ 被害者は、女性に限られず、男性が被害者となる場合もあります。
○ 配偶者には、婚姻の届出をしていない、いわゆる「事実婚」も含まれます。
○ 離婚後(事実上離婚したと同様の事情に入ることを含みます。)も引き続き暴力を受ける場合も含まれます。
最後に。当たり前すぎることを書きますが、我慢する必要性は何もありません。もしも、DVを含む暴行・恐喝・痴漢・強姦などの被害や、また、カルト宗教やマルチ商法や投資詐欺などの被害に遭ったり、さらには、相場操作・インサイダー取引・ディスクロジャー違反等の事実を発見したならば、速やかに公的機関へ被害を届けてください。ためらう必要性はまったくありません。
2月28日追記。
はてなブックマークにてツッコミを頂いたので以下メモ。
http://b.hatena.ne.jp/entry/http://ideaflow.blog26.fc2.com/blog-entry-252.htmlこの記事に全く同意です.女性が加害者の場合の記述もありますが,身体的暴力の酷さは男性から女性が基本ですから,それは女性被害者を重視するべき.問題は精神的暴力まで入れるとどうなのだろうという所です.
まず、ツッコミどうもです。DV法で精神的暴力と定義されている暴力と、刑法とその関連法規におけるそれ、とが完全には重なり合っていないのでは?、というのも問題の1つなのかも、というご指摘である、と解釈した上で以下。
ストーカー規制法と売春防止法は存在しているので、配偶者又は元配偶者に対してであってもつきまとい行為をしたり、売春を強要したりするのは既にダメ。刑法でも、住居侵入や強制わいせつや強姦はもとより、不同意堕胎もダメ。なので、周囲の人たちや被害者や加害者が判断に迷うのは、身体的に暴行は受けていないものの、精神的ダメージが大きいとされているからこそ規定されている条文(脅迫、強要、名誉毀損、侮辱など)に関係している、と。確かに、日本では刑法教育がないから、知らない人はまったく知らないし、判断に迷っても不思議ではないはず。(とりあえず以上です。また追記するかも。)
3月1日さらに追記。
池田先生のブログのコメント欄で、核心を突きすぎているコメントを発見しました。
Re: 対案は? (ikedanobuo)
2008-02-27 18:10:29
同じような話はうんざりなので、これで最後にしますが、「犯罪行為」をなぜ経産省が面倒みるんですか。警察がやればいいでしょ。
サラ金もそうだけど、本来は刑法や民法の改正で司法的に統一して解決すべき問題を、個別の「業法」で役所がバラバラにやるから混乱するのです。それはなぜかといえば、通産省OBにいわせると「法制審にかけると5年以上かかるが、業法なら最短1年でできる」。
つまり官僚が立法の手間を省き、警察や裁判官の役割も兼ねることで権限を拡大し、予算と天下り先を確保するために、こういうわけのわからない法律がいっぱいできるのです。
この池田先生のコメントにある「経産省」を「内閣府」に代えると、今回取り上げたDV防止法も同じ構造の上に成り立っているのが理解して頂けるかと思います。
なので、なんていうのかな。。「国」や「役人」に、何かを求めるのは無理があると私は思っているし、そういう意味では、福祉国家リベラルの人たちの気持ちはわかるものの、あんまり良い案だとは思えないんだよね、正直。
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